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2012年 02月 29日
2012年2月より、ACCが以前より「虹の学校」を通じて関わってきたセルビア共和国スメデレボ市郊外のオーラ難民センター、首都ベオグラード市のカルジェリッツァ難民センターで暮らす子どもたちのための新たな心理社会支援プロジェクトがスタートしました。この事業は、JICA(国際協力機構)の「草の根技術協力事業」の業務委託を受けて実施されるもので、今後3年間に亘って活動が続けられます。
セルビア共和国初の「草の根技術協力事業」として、その責任を重く受け止めつつ、現地の子どもたちの心の成長とACCの活動の進化を目指し、担当者のみならず事務局一同一丸となって取り組んで参ります。 <プロジェクトの背景> ユーゴ紛争終結から約17年、コソボ紛争から13年を経たセルビア共和国では、国内の長期に及ぶ経済的停滞が、社会全般の貧困問題を一層深刻なものにしています。2011年春にACCが行った聴き取り調査では、国民の平均月収が首都圏で約300ユーロ(約31,000円)、地方都市では約200ユーロ(約20,500円)という実状に加えて、失業率は16.9%という高率を示しており、貧困層には極めて厳しい生活環境となっていることが判りました。また収入額に関わらず給与の約40%が税金と社会保険料として差し引かれるため(例 支給額面33,000円の月収が、手取り額は約18,000円になると、現地の友人の一人が嘆いていました)、物価上昇の中で生活していくことは容易なことではありません。 このような厳しい社会環境の中に身を置き、最も困難な生活状況に直面している集団のひとつが、難民・国内避難民(以下IDP)です。紛争中や紛争後間もない頃は、数多くの国際機関やNGOが様々な支援を展開しましたが、それから長い時が流れ、継続して支援を提供している団体は非常に少なくなっています。そして、その長い時を経た今も尚、難民センターから出ることが出来ずにそこで暮らす人々は、最も支援を必要としている人々と言えるのではないでしょうか。 セルビア内の難民センターの多くは町外れにあります。その地理的要因と貧困により、子どもたちの生活空間はセンターと通学している学校の中だけとなっていて、その社会活動は極めて制限されたものとなっています。更に復興の遅れからもたらされる社会的停滞は、地元民の精神的疲弊度にも大きな影響を与えており、難民集団をあたたかく迎え入れる余裕がないことも多い状況です。 このような状況の中で育ってきた子どもたちに見られる一般的な傾向としては、心理面では社会活動からの引きこもり、未来への展望を描くことに必要な内的資源の枯渇、人間関係への不信などがあげられます。行動面では、自己管理能力が欠如しやすく、調和的な人間関係の構築を妨げるような乱暴な振る舞い、根気のなさなどが指摘されています。そして、抑圧感に苦しみ、心理的・社会的サポートを必要とするニーズは、難民・IDPに限らず、この国の社会全般に広く存在していることを忘れてはなりません。 <プロジェクトの内容と目標> ヨーロッパで最大の難民センターといわれるオーラ難民センターには、現在も104家族、279名の難民・IDPが暮らしています。また、カルジェリッツァ難民センターには31家族、131名が生活しています。 このプロジェクトでは、ACCと長年協力関係にあるセルビア共和国のNGO「Zdravo da ste」をカウンターパートナーとして、前掲のオーラ難民センター、カルジェリッツァ難民センターを定期的に訪れ、心理ワークショップを主体とする心理社会的支援を実施していきます。子どもたちが地元のコミュニティの中により一層溶け込めるよう、通学先の小学校に在籍している地元の子どもたち等にも参加を呼び掛け、包括的なアプローチを展開していきます。オーラ難民センターでは2012年2月より月2回定期的にワークショップが開催されています。 実態や成果が数字として示される物資支援と異なり、心理社会支援ではそれがなかなか明確には表わされないため、長期的な活動資金を確保することが難しいという現実があります。今回「JICA 草の根技術協力事業」に採択され、3年間に亘り活動を継続していく中で、その活動の記録と成果の評価を確実に積み重ね、心理社会支援の必要性への認知度を向上することにも寄与していくことを目指したいと思っています。 さらにこのプロジェクトには、若い世代の人材育成という、もう一つの大きな目的があります。ACCやZdravo da steが培ってきた支援方法が、若い世代に引き継がれ、支援の継続性が確保されるよう、Zdravo da steのYouth Groupが活動の主体を担っていくことが期待されています。現時点で3名の若者がこの活動に参加し、新たな挑戦を始めています。 貧困や他の社会的停滞の中で、未来に希望を描けない子どもたちが、社会の一員として誇りをもった生活が営めるように、そして豊かな精神性と文化を内在できるように、更には将来社会の構築に積極的に参画できるように、健全な心の成長をサポートしていくためには、様々な機会の提供と訓練が必須です。 ACCは、上記の厳しい社会的条件の下で成長し、その社会の明日を担う子どもたちが、この草の根プロジェクトのグループワークで行う心理ワークショップへの参加を通して、想像性、社会性が開発され、精神力、適応力、構築力が強化されること、また将来にわたってセルビア国内での支援活動が継続し得るよう、Zdravo da ste Youth Groupがワークショップ、組織運営の経験を積み重ねることが出来るよう、今後3年間このプロジェクトに取り組んで参ります。 プロジェクトの進捗状況につきましては、今後もACCのホームページ上で「JICA草の根通信」としてお伝えしていきます。このプロジェクトに対するご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
by hopeacc
| 2012-02-29 13:00
| ACCニュース
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