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1 2013年 09月 14日
「危機」から「コミュニティ」へ
~名称変更にあたって振り返るACCの13年~ 代表理事 松永知恵子 この度、ACCの名称が「ACC危機の子どもたち・希望」(英語名Actions for Children in Crisis)から「ACC・希望」(英語名:Actions for Children and Communities)に変更されました。この名称変更の背景について記したいと思います。 「危機の子どもたち」と「希望」 2001年の設立当時、ACCの活動地域は、ユーゴ紛争とよばれる旧ユーゴスラビア内戦の敵対国同士、クロアチアとセルビアでした。熾烈を極めたユーゴ紛争の人道支援の現場では、紛争によるトラウマを負った人々の問題が非常に大きく懸念されていました。このニュースレターでも何度かふれたことですが、内戦終結後WHO(世界保健機関)が行ったメンタルヘルスの調査では、当時の旧ユーゴスラビア全体の人口2,300万人に対して最大推定値の難民・国内避難民が380万人、そしてその約20%の80万人が重度のストレス下にあり専門家の介入がないと重大な社会病理になるとの警告が出されました。私自身、当時現地で支援活動、調査活動に携わる中で、この警告が現実を示していることを強く感じていました。 95年に一応の終結をみたユーゴ紛争に続き、99年にセルビア共和国ではコソボ紛争がありました。昨日までの同胞が血で血を洗うような内戦から一定の時を経ているとはいえ、当時の旧ユーゴスラビアは人も社会・共同体もトラウマの影を負いながら生きている状態であり、その問題と如何に取り組むかがACCの活動の背景でした。つまり、まさに人々が心理的にも、社会的にも「危機」の中で暮らしている状態だったのです。そして、それは、そのような緊張状態の中で生育していく子どもたちにとっては一層深刻な問題でした。まだ生々しい「危機」の時代、こうした人々に心理社会的支援を提供したいという願いが、ACCの始まりでした。 一方、私たちは活動開始当初から大切にしてきたことがあります。支援活動は、図式としては私たちが「援助をしている」という現実はありますが、実はその水面下では人間同士が出会い、学び合い、より豊かな未来に向かう、或いはより豊かな人間としてのあり方を目指しての成長、変容が促される場であるという「相互性」にもっと自覚を向けて行こうということです。今、「危機」の中にいる子どもたちは私たちに、人間や豊かな未来のあり方に普遍的な問いかけをしている存在であり、その問いかけを受けとめながら共に歩みを進めようとするところに希望があるのではないかと考えました。その思いを託したのが、「危機の子どもたち・希望」という名称でした。 そして「今」 活動開始以来13年目を迎えている今、ACCを支援して下さる皆さまのご理解とご協力を頂き、ACCは旧ユーゴスラビアのセルビアで心理社会的支援、アジアではカンボジアとスリランカで教育支援、そして国内では平和学習活動と東日本大震災支援活動に取り組むようになりました。海外活動地域のセルビア、カンボジア、スリランカはいずれも苛酷な内戦を経た国です。活動を展開していくうちに私たち自身が学んだことに加え、時の流れと共に活動地域のニーズは変化をみせていきました。アジアの国々では貧困問題や社会の基盤をより強固にしていくための教育環境の整備もまた、心理「社会」的支援にとっては重要な課題です。また、セルビアでは、あまりにも緩やかな復興の中で、やはり貧困問題、或いは社会的格差の拡大、難民をはじめとする所謂社会的弱者層の停滞感、孤立感や閉塞感が問題となっています。特に旧ユーゴスラビアのセルビアでは、切迫感を伴った「危機」の時代から、慢性的な「停滞」の時代へと変化してきたように思われます。 こうした現状において、支援を必要としている人びとが求めているものは多岐にわたりますが、ACCがこれまでの活動の中で大切にしてきたこと、そしてこれからも大切にしていきたいこと、それは人間の力、人間の心の力です。例えば貧困問題を例にとった時、私たちは貧困の構造そのものと取り組むばかりではなく、その中を生き抜く個の力に眼差しを向けて行きたいと思うのです。いわゆる「心のケア」と同義化されやすい心理社会的支援ですが、人間の力、心の力の向上に必要なのは、単に心理的諸問題の解決ばかりではない筈です。そこには、社会活動の活性化、教育環境の充実化など、様々な課題があると思われます。どのような支援活動であれ、その中心的視座に「ひと」、「ひとの力」を置いていくこと、そしてその向上を私たちも共に目指していくこと、それがACCの考える心理社会的支援であり、また「希望」なのです。 もうひとつ、忘れてはならないことがあると思います。それは、これまでの支援活動の中で出会った人々は決して「受益者」という名称で括られる「集団」ではなかったということです。一人ひとりに個別の物語があり、そしてその一人ひとりは何よりも同じ地平に立つ人間同士の繋がりを求めているのです。人間同士が関心を寄せあうことで生まれる「出会い」や「結びつき」によって励まされ、その結果「生きていく力」を得るのは、紛争地域や被災地の人々だけではなく、私たち皆ではないでしょうか。 人と人が繋がり合う場、或いはその関係性そのものに願いを託し、またそうした「場」の構築を目指すことを期して、今回の名称変更にあたり英語名に「Communities」という言葉を入れました。 「危機の子どもたち・希望」から「ACC・希望」へ、「Actions for Children in Crisis」から「Actions for Children and Communities」へ、ACCはこれからも、この名称にこめた願いを活動地域で関わるすべての人びとと共に目指し、支援者の皆さまのご協力を仰ぎつつ、活動を継続して参ります。 皆さま方のこれまでのご支援にあらためて感謝申し上げますと共に、これからもACCの活動にご理解とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。 ■
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by hopeacc
| 2013-09-14 00:10
| ACCニュース
2013年 09月 01日
ACCは8月4日から8日にかけて長野県茅野市にある太陽館を会場として、芸術家グループ「やまんB・art実行委員会」との共催で「高原夏のアトリエ2013」を開催しました。4泊5日のキャンプに参加した福島県に住む小学4年生~中学1年生、合計14名の子どもたちは日々盛りだくさんのプログラムを生き生きとした笑顔を見せながら体験していきました。
8月4日、太陽館到着後、みんなで自己紹介をした後は温泉で長旅の疲れを癒し、スタッフが奏でる竪琴の音色と物語の朗読を聞きました。 5日の朝は森をハイキングして、キノコや落ち葉、木の枝などを拾いました。また、ハイキングから帰ってきた後にそれぞれ森で見た景色を画用紙に描きました。午後は拾ってきた自然物に絵の具で色を付けて大きな布にみんなでスタンプをしました。 6日のアートフェスティバルでは、コラージュ、ロウソク作り、フェイスペインティング、そしてピザ作りを楽しみました。 7日は大きな木の枝や縄で森のオブジェを作り、お昼には焚き火でパンを焼きました。夕方のBBQの後は、夏のアトリエ参加者全員で心に残った思い出を画用紙に描き、みんなで発表しました。そして最後に輪になって、子どもたち一人一人に高原夏のアトリエ2013の修了証書を手渡しました。 ![]() ![]() こうした楽しい時間を過ごす合間に、付き添いで参加してくれた伊達市在住のお母さんと南相馬市在住の画家・須田さんから、2011年の東日本大震災発生後から現在に至るまでのお話をスタッフ全員で聞く機会がありました。 南相馬では津波によって大勢の方々が亡くなってしまっただけでなく、その後の福島第一原子力発電所事故の影響で行方不明者や遺体の捜索がしばらく出来なかったこと、原発事故後に南相馬の街がもぬけのからになってしまったことなど、須田さんはご自身の体験を話して下さいました。また、原発事故後の補償や放射線の問題を巡って、地域住民や家族間の不仲が増えてしまい「補償にしても放射線にしても『真実』って何なのだろうかと考えずにはいられない。精神的に疲れてしまった大人達の顔色をうかがいながら生活しなくてはいけない子ども達のことが心配です」と複雑な思いを語って下さいました。 伊達市在住のお母さんは、「自分が子どもの頃は普通に山に入って遊んでいたが、今は山の中は放射線量が高いのでそれができない状態。なんとか事故前の普通の状態に戻そうと皆がんばってはいるが、そもそも『普通』って何だったっけ?と考えてしまう」と話して下さいました。 「真実って何だろう」、「普通って何だろう」。原発事故は今までの生活で培われた概念を根底から覆す出来事だったのだと、お二人の話を聞いて感じました。 そして最後に、伊達市在住のお母さんはこう言い添えました。「でも、これだけは言わせて下さい。もちろん原発事故は起きて欲しくなかった出来事だけど、それがあったから『高原夏のアトリエ』のようなキャンプに子どもも自分も参加できて、様々な出会いがあったことには本当に感謝しています」と。お母さんの目にも、話を聞いていた他の人々の目にも、涙が浮かんでいました。 お陰様で「高原夏のアトリエ2013」は、子どもたちの晴れやかな表情のうち、無事全ての日程を終えることができました。物心両面にわたってご支援・ご協力頂きました皆様に、心から御礼申し上げます。 ![]() ■
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by hopeacc
| 2013-09-01 21:45
| ACCニュース
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